雑巾
わたしは中学・高校と剣道をしてきました。県下でも有名な、剣道の先生のもとで、6年間剣道に燃えていました。剣道の先生からは、剣道の技術も教えてもらいましたが、それ以外にも、人として大事なことを教えていただきました。
「剣道ばかりが強くなるではだめだ。」
これは、その時の先生の口癖でした。
剣道の先生から学んだことはたくさんありますが、その中でも特に印象に残っているのが雑巾の話です。
中学生の頃、掃除となるとついついサボってしまうようになっていました。あるいは、ただほうきを動かしているだけ。掃除をしている格好だけ。頭の中は「めんどくさいなぁ。」という気持ちでいっぱいです。時には、非常階段で友だちと遊んでいることもありました。
それでも、剣道場に行ったら、剣道場の水拭きはしっかりやる子でした。理由は簡単。しっかり掃除しないと、先輩が怒るからです。自分からやるのではなく、やらされている掃除です。
ある日、剣道の稽古が終わって道場を水拭きしているとき、剣道の先生がみんなにこう言いました。
「自分の雑巾を見なさい。」
雑巾はみんな真っ黒です。そりゃそうです。練習が終われば、毎日雑巾がけをしています。
「その雑巾が黒ければ黒いほど、自分がこの道場をきれいにできたということだ。黒ければ黒いほど、価値のある雑巾だ。」
みんなで自分の雑巾を見ました。価値のある雑巾だなんて、考えたこともありません。でも、周りを見れば、どの仲間の雑巾も黒く汚れていて、特に、いつも自分たちに「掃除をしろ。」と、口やかましいこわい先輩の雑巾なんか特に真っ黒けで。みんなの雑巾は真っ黒、だから剣道場はいつもピカピカなのです。雑巾と剣道場のピカピカな床を見比べているうちに、自分が持っている真っ黒になった雑巾のことが、誇らしく思えてきました。
剣道場の水拭き掃除はいつも一生懸命やるのですが、教室や廊下の掃除の時には、楽な仕事を選んでしまったり、さぼってしまったり、一生懸命できていません。実際に、教室で使っている雑巾は、真っ白です。真っ白い雑巾が、恥ずかしく思えてきました。
6年生の子どもたちに、そんな雑巾の話をしました。すると、6年生でも雑巾を真っ黒にする掃除ができるようになりました。掃除が終わって、雑巾が汚くなったことを喜んでいる子もいます。陽信さんは、全校で一番汚れた、価値のある雑巾を持っています。わたしは、陽信さんの雑巾の黒さを越えることをめざして、毎日掃除をしています。