わたしが以前担任した子が、長い長い作文を書きました。その作文は、わたしの宝物です。クラスづくりで悩んだとき、子どもの指導で悩んだとき、この作文を自分で読んだり、子どもたちに読んだりしています。この作文を書いた子は、もうすぐ大人の仲間入りをするくらいの年になりました。本人にも許可をとっているので、みなさんにも、紹介します。仲間について悩んでいる人は、読んでみてください。
仲間になるまで
私たちのクラスは、保育園の時からメンバーが変わらず、十年間いっしょにいます。だれがどんな性格なのか、おたがいがよく分かっているため、私は気の合う仲の良い人だけといっしょにいました。みんなそんな感じで、だんだんとグループができていました。でも、そのことを気にする人はいませんでした。私もそれでいい、その方が楽しいし、楽でいいと思っていました。
四年生の時、五か月練習して、音楽発表会に参加しました。あの時、みんなの歌声が一つになって、「みんなと一つのことをするっていいなぁ。」と思いました。みんなも、同じように思ったはずです。でも、高学年にだんだん近づいていくと、話のできない人は増えていきました。一人の友達としか親しく話ができなくなってきました。「みんなと一つのことをすると気持ちがいいのに、どうしてみんなと話せなくなっていくのかな。」と思ったことがあります。
五年生でリレー大会があり、私たちのクラスはビリになりました。六年生や四年生に負けました。その時、「くやしいから、練習しよう。」というふんいきにはなりませんでした。「どうでもいいよ。」という態度をみんながとりました。私もそうだったかもしれません。
クラスみんなで挑戦することになった無農薬のお米作りも、最初は協力してがんばると言っていたのに、草取りを人任せにしたり、観察をさぼったり、かんじんの稲刈りの時には、カメムシがたくさん来てしまって、一部の人たちががんばり、後はながめているだけでした。リレー大会も、お米作りも、先生にすごく怒られました。「もっとみんなで協力できないのか。」と何回も言われました。私はそんな事、分かっていました。リレー大会で負けたら練習しないとまたくやしい思いをします。お米作りだって、協力しないと失敗します。分かっているけどできません。いつも話さない子と、どう仲良くしていいのか分かりません。
国語で、「ぼくの世界、きみの世界」という勉強をしました。「言葉のキャッチボールがあれば、人は分かり合える。」と筆者は書いていました。「人と人は感じ方がちがう。そのことをおそれて、いつまでもきょりをとっていたら、ずっと分かり合えない。」と思いました。
六年生になってから、リレー大会があって負けてしまったら、「練習しよう。」と言ってみました。同じように思ってくれてる人がいて、「そうしよう、そうしよう。」とみんな声をかけてくれました。まずは勇気を出してみんなの言葉のボールを投げてみたら、意外と同じようなことを考えている人はいることに気づきました。
ほとんど発表ができない私でしたが、授業の中でももっと言葉を投げてみようと、友達との話し合いでは、自分の考えをどんどん言ってみました。私の言葉を聞いてくれて、つけたし意見を言ってくれる友達がいるとうれしくなりました。反対意見も、言葉のボールが返ってきたような気がして、楽しく思えてきました。
休み時間のすごし方も変えてみました。いろんな人と話をしてみました。話しにくい人は、声をかけてみました。すると話はたくさんでするほど楽しいんだと思えてきました。男の子とも今では楽しく話せます。
最後の運動会、私は思いきって応援団長に立候補しました。そんな気持ちになったのは仲間についてたくさんの事を考えてきたからだと思います。仲間と言葉のキャッチボールをしてきた事で、いつのまにか私はみんなと話ができるようになり、このクラスにいる事が楽しくなりました。私だけでなく、みんなも同じような感じで、今私たち二十七人は、とっても仲良しです。仲間っていいなとみんなが感じています。そんな事を今度は、全校のみんなに広めていきたいと考え、応援団長になりました。
練習では、大きな声でみんなに言葉のキャッチボールを投げました。みんなの意見も聞きながら練習しました。応援の声や動きがだんだんそろっていったのは、キャッチボールがができていたからだと思います。運動会では、残念ながら負けてしまいましたが、最後はみんなの前で「負けてしまったけど、みんなと一つになれた気がして楽しかった。」と言えました。本当の気持ちでした。
一人しかいなかった友達が二十七人に増え、今度は紅組の九十人。来年は中学生になりもっとキャッチボールをして、仲間を増やしていくつもりです。そして、本当の仲間になった二十七人を中学生になっても高校生になっても大人になっても、ずっと大切にしていきたいと思います。
仲間になるって、実はとても難しいことです。仲間で悩む子は牧小にもたくさんいます。わたしたち先生も、仲間づくりに悩みます。なにができるか、どうしたらうまくできるか考えたとき、やっぱり「言葉のキャッチボール」が大切だなって思います。