もう、何年も、何年も前のこと。ある夏の日のこと。我が家の甘えん坊、末っ子のえいすけ君が、まだ相良保育園年長の時のことです。
玄関の前に、蟻の行列を見つけたのです。「パパ、ありさんはどこに行くのかなぁ。」と言ったので、わたしは、「お家に帰るんだよ。」と言いました。えいすけは、蟻の行列をずっと追っていきました。「お家はいったいどこにあるのだろう。」と必死になって。植木の間をかき分けて、蟻の行列を追っていました。頭の中は「蟻」のことでいっぱいです。膝小僧は擦り傷ができていました。普段はちょっとの擦り傷でも痛がってべえべえ泣くえいすけですが、擦り傷を気にしないで蟻を追いかけ進んでいきます。自分がやりたいことに夢中になっていると、擦り傷なんてかまっていられなくなるんです。
ようやく蟻の巣を発見しました。今度は、穴を指でほじくり返していました。蟻にはもうしわけなかったですが、えいすけの好奇心を優先させてもらい、わたしは横で見ていました。指はすぐに真っ黒くなり、爪の間に土が入り、痛そうでした。でも、夢中になって、痛みを感じることもなく掘り続けていました。途中で穴も蟻も見失って、ようやくあきらめたとき、擦り傷に気づきました。でも、泣きませんでした。いつもだったら、大泣きしているところです。
えいすけは、蟻を追って傷をつくって、その後に泣きませんでした。擦り傷が成長の証だと、わたしはその時感じました。
子供たちの中には、学校生活の中で、心の擦り傷を作ってしまう子だっています。学校生活だけじゃなくて、家での生活の中から、擦り傷をこさえてしまう子もいます。みんなよく頑張っています。
傷ができたら、傷口を治そうと必ずかさぶたができます。かさぶたができたあとは、皮膚が少し厚くなり、強くなります。骨もそうです。折れた骨はくっついた後、少し太くなるそうです。人はみーんな、体と心の擦り傷を何度も作って、少しずつたくましくなっていくのだと思います。傷は、その人にとって成長に必要な財産。
傷は人を成長させるものなんだと信じて、擦り傷を作ってしまって、今必死にがんばっているあの子も、あの子も、みんながんばれ。