2015/01/29 | すてきな本と出会ってほしいな | | by:教頭 |
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高校生の時、私には剣道しかありませんでした。中学から始めた剣道のおもしろさがようやく分かり、生涯剣道に関わっていこうと思っていました。剣道の強い大学に行って、もっと腕を磨きたい。剣道が生かせる職業として、警察官になりたい。その前に、インターへハイに出て、自分の力を試したい。剣道の夢ばかり、剣道のことしか頭にない毎日でした。しかし、右手首の骨折が原因となり、剣道をあきらめなくてはならなくなりました。「剣道を続けていくことは不可能。」と医者から言われ、すべての夢が一瞬にしてなくなってしまいました。私にとっての、最初の挫折でした。目標も夢もなくなってしまい、これからどうしていいのか、さっぱり分からなくなってしまいました。そんな時に出会ったのが、灰谷健次郎の本でした。
国語の先生が、みんなに本を読んでくれました。毎日少しずつ、何日も何日もかけて、本を読んでくれました。その本が、「兎の眼」、灰谷健次郎が書いた本です。小谷先生という若い女の先生と、ハエを飼っている子ども、差別や偏見と闘いながら、小谷先生は子どもたちと一緒になって、人間として成長していきます。その物語は、それまで読んだどの本よりも感動しました。初めての経験でした。その先生がすべて読んでくれた後も、自分でもう一度読みました。
灰谷健次郎が書いた作品が他にもないだろうかと探しました。沖縄戦争と、沖縄に対する差別をテーマにした、「太陽の子」という本と出会い、読みました。この本もすばらしい本でした。「ふうちゃん」という子どものたくましさに、感動しました。
「兎の眼」が、私の人生を変えました。目の前が真っ暗だったのに、ポツンと灯りが灯りました。それが、「小学校の先生」という夢です。夢といっても、まったく具体的でなく、ただ小谷先生のような人になりたいなぁと思いました。高校3年生の時でした。私の進路が、大きく変わっていきました。
大学に進んでからも、時々灰谷健次郎の本を読みました。その中に、灰谷健次郎が小学校で先生をしていたときの子どもたちが書いた詩集も読みました。子どもたちの素直な感性と、そんな感性を引き出した灰谷健次郎がすごいと思いました。「チューインガム1つ」という詩と出会ったのもそのころです。灰谷健次郎の本を読むと、毎回新しい出会いがあり、読んだ後しばらくは動けません。動かずに、頭の中でいつもいろんなことを考えます。
教師になってから、学校のことで悩みがあったり、子どものことでうまくいかないことがあると、「兎の眼」を読みました。先生という仕事は難しい、やめてしまいたいと思ったときもあります。そんな時を乗り越えられたのも、「兎の眼」があったからです。先生を目指そうと思った原点の本は、今までずっと私を支えてくれました。
「兎の眼」は、私の宝物。迷ったときにはこの本を読みます。読んで、先生を目指そうと思ったときの自分を思い出し、一生「子どもと真剣に向き合う教師」でいたいと思います。
子どもたちは、これからどんな本と出会うでしょう。