2012/12/17 | 肉屋のおっちゃん |  | by:牧之原小教務 |
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大学生の時、私が住んでいたアパートの1階に、お肉屋さんがありまして、その肉屋には何度も買い物に行きました。そのお肉屋さんのおっちゃんがすごい人だったんです。すごい技を持っている人でした。
例えば、牛肉を300グラム買いに来たおばさんがいます。
「えーっと。牛肉を300グラムもらおうかしら。」
と、おばさんが言います。するとおっちゃんは、
「ありがとうございます。」
と威勢のいい声でおばさんに言うと、目の前に並べられたいろんなお肉の中から、牛肉が山のように入っているバットを取り出し、右手でがばっとつかむと、そのままお肉は袋の中に。その袋をすぐにおばさんに渡していました。
最初は少しも変だとは思わなかったんです。私の順番が回ってきても、同じことの繰り返しで、おっちゃんのしていることの中に変なことが一つあるということに気づかなかったんです。みなさんは、気づきましたか。気づいていない人もいますから、もう一回。
私が豚肉を200グラム買いに行きます。
「おっさん、豚肉を200グラムちょうだい。」
と、私が言います。するとおっちゃんは、
「あいよーっ。ありがとねーっ。」
と威勢のいい声で私に言うと、目の前に並べられているショーケースの中から、豚肉をとり、右手でがばっとつかむと、そのままお肉は袋の中に入れて、
「お兄ちゃん、300円ねーっ。」
と言います。気づきましたか。おっさんのすごい技に。
実は、お肉の重さを量っていないんです。300グラム、200グラム、右手でつかむだけで、量りの上にはのせないんです。本当に重さがあっているのでしょうか。
私はあやしく思い、おっちゃんに聞いたことがあります。
「おっちゃん、適当にやってるんじゃないの。本当に重さはあってるの。」
するとおっちゃん、にっこり笑って、
「にいちゃん、おっちゃんは、プロだよ。肉の重さを知りたいのに量りなんてものはいらねえよ。重さはすべて、右手が知ってるよ。」
とかっこよく言いました。そのあと、実験で豚肉をつかみ、量りにのせてくれましたが、200グラムも300グラムも、すべてぴったり。右手だけで見事言われた重さにすることができていました。
プロだなぁと思います。その道のプロは、かっこいい。
わたしたち教師は、何ができるようになっていればプロかなと考えました。肉屋のおっちゃんに負けないくらいのかっこいいプロの技があるはずです。それはずばり、子どもが何を考えているかが分かることだと思います。
「あれっ。何かいやなことがあるのかな。今日は顔つきがちがうぞ。」「あの顔は、今教えたことを理解できていない顔だな。」「きっと友だちとトラブルがあったな。」そんな感じで、子どもの表情や立ち振る舞いで子どもの心の中に気がつくことがあります。勉強を分かりやすく教えること、学級づくりを上手にやること、他にもいろいろ教師としてのプロの技があると思いますが、子どもの心に気づく先生が、肉屋のおっちゃんに対抗できる、かっこいいプロの姿だと思います。
しかし、時には子どもの心に気づいてあげられないこともあります。プロとして失格です。困っている子がいたことに後から気がついたときは、自分が情けなくて情けなくて。子どもに申し訳なくて。「早く気づいて、助けてあげられなくてごめんね。」と、心の中で土下座をします。今、私は、そんな気持ちです。